
記事のポイント
- シーケンス図はシステムの振る舞いを可視化し、開発におけるコミュニケーションを円滑にする。
- 要件定義からメッセージの流れを設計し、システムのフローを可視化することが重要である。
- Lucidchart等のツールを活用し、複雑化を避け、正確性と一貫性を保つことが重要。
はじめに
詳細設計におけるシーケンス図は、システムの振る舞いを時間軸に沿って可視化する強力なツールです。この記事では、シーケンス図の基本概念から構成要素、詳細設計における役割、そして具体的な作成手順までを網羅的に解説します。
システムのフローを明確にし、オブジェクト間の連携を円滑にするための実践的な知識を提供します。シーケンス図の理解を深め、設計プロセスに役立てていきましょう。
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シーケンス図とは:基本概念と構成要素
シーケンス図は、システム内のオブジェクト間で行われる時間的なメッセージのやり取りを視覚的に表現する図です。システムの振る舞いを理解し、関係性を明確にする上で重要な役割を果たします。
ライフラインの役割と表現
シーケンス図におけるライフラインは、オブジェクトまたはアクターの存在期間を表す縦の破線です。このライフラインは、オブジェクトが生成されてから破棄されるまでの時間を視覚的に示し、オブジェクトがいつシステム内で活動しているかを明確にします。
ライフラインには、オブジェクト名が記述され、そのオブジェクトがどの役割を担っているかを示します。オブジェクトがメッセージを送受信できる状態にある期間を示し、相互作用が発生する可能性のある時間範囲を定義します。
ライフラインは、オブジェクトの生成から破棄までの全期間を表す場合と、特定の処理期間のみを表す場合があります。例えば、Webアプリケーションにおけるユーザー認証処理をシーケンス図で表現する場合、ユーザーオブジェクトのライフラインは、認証開始からログアウトまでの期間を示すことになります。
また、データベースオブジェクトのライフラインは、データの読み書きが行われる期間を示すでしょう。ライフラインの開始点はオブジェクトの生成時点を示し、終了点はオブジェクトの破棄時点を示します。
オブジェクトが一時的に活動を停止する場合でも、ライフラインは途切れることなく継続して描画されます。ライフライン上に実行仕様が描画されることで、オブジェクトが実際に処理を実行している期間が明確になります。
ライフラインを理解することで、システム内のオブジェクトがいつ、どのように相互作用しているかを把握することが可能になります。
メッセージの種類と意味
シーケンス図におけるメッセージは、オブジェクト間で交換される情報の流れを表します。メッセージには、同期メッセージと非同期メッセージの2種類が存在し、それぞれ異なる意味を持ちます。
同期メッセージは、送信元のオブジェクトが応答を待つメッセージであり、処理の同期的な呼び出しを意味します。例えば、あるオブジェクトが別のオブジェクトのメソッドを呼び出す場合、同期メッセージが使用されます。
送信元のオブジェクトは、メソッドの実行が完了し、応答が返ってくるまで処理を中断します。一方、非同期メッセージは、送信元のオブジェクトが応答を待たないメッセージであり、処理の非同期的な呼び出しを意味します。
例えば、あるオブジェクトが別のオブジェクトにイベントを通知する場合、非同期メッセージが使用されます。送信元のオブジェクトは、メッセージを送信した後も処理を継続し、応答を待つことはありません。
メッセージには、メッセージ名、引数、戻り値などの情報が含まれます。メッセージ名は、オブジェクト間でどのような処理が行われるかを示し、引数は、処理に必要なデータを示します。
戻り値は、処理の結果として返されるデータを示します。メッセージの種類を理解することで、オブジェクト間の相互作用がどのように行われるかを把握することが可能になります。
メッセージの流れを分析することで、システムのボトルネックや潜在的な問題を特定することもできます。
実行仕様と停止の理解
シーケンス図における実行仕様は、オブジェクトが処理を実行している期間を表す縦長の長方形です。ライフライン上に描画され、オブジェクトがアクティブになっている状態を示します。
実行仕様は、オブジェクトがメッセージを受信し、処理を開始してから、処理が完了するまでの期間を表します。実行仕様の開始点は、オブジェクトがメッセージを受信した時点を示し、終了点は、処理が完了した時点を示します。
実行仕様が重なっている場合、オブジェクトがネストされた処理を実行していることを意味します。例えば、あるオブジェクトが別のオブジェクトのメソッドを呼び出し、そのメソッドがさらに別のオブジェクトのメソッドを呼び出す場合、実行仕様がネストされます。
停止は、オブジェクトのライフラインが終了する時点を示します。オブジェクトが破棄される場合や、特定の処理が完了し、オブジェクトが不要になった場合に停止が使用されます。
停止は、ライフラインの終端に×印で描画されます。停止を理解することで、オブジェクトがいつシステムから消滅するかを把握することが可能になります。
実行仕様と停止を組み合わせることで、オブジェクトのライフサイクル全体を視覚的に表現することができます。
詳細設計におけるシーケンス図の役割
詳細設計においてシーケンス図は、システムの振る舞いを時間軸に沿って可視化し、開発におけるコミュニケーションを円滑にする重要な役割を果たします。シーケンス図を活用することで、システムの内部構造やオブジェクト間の連携が明確になり、より効率的な開発が可能になります。
システムのフロー可視化
シーケンス図は、システム内の処理の流れを明確に可視化する役割を担います。これにより、開発者はシステム全体の動作を把握しやすくなり、複雑な処理フローも容易に理解できます。
例えば、オンラインショッピングシステムにおける購入プロセスをシーケンス図で表現することで、ユーザーが商品を検索し、カートに追加し、支払いを行い、注文が確定するまでの一連の流れを視覚的に追跡できます。各オブジェクト(ユーザーインターフェース、商品データベース、決済システムなど)間のメッセージ交換を詳細に記述することで、システムの挙動を正確に把握し、潜在的な問題点を早期に発見することが可能になります。
シーケンス図は、システムの概要を把握するだけでなく、詳細な実行仕様を理解するための重要なツールとなります。
オブジェクト間の依存関係の明確化
シーケンス図は、システム内のオブジェクト間の関係性を視覚的に表現し、依存関係を明確にする上で不可欠です。オブジェクト間のメッセージの流れを追跡することで、どのオブジェクトが他のオブジェクトに依存しているかを容易に特定できます。
例えば、銀行の送金システムにおいて、顧客オブジェクト、口座オブジェクト、トランザクションオブジェクト間のメッセージの流れをシーケンス図で表現することで、送金処理におけるオブジェクト間の依存関係を明確にできます。これにより、システムの変更や拡張を行う際に、影響を受けるオブジェクトを特定しやすくなり、システムの安定性を維持できます。
シーケンス図は、オブジェクト間の役割と手順を明確にし、システムの構成要素間の連携を理解するための重要な手段です。
コミュニケーションの円滑化
シーケンス図は、開発チーム内での共通認識を醸成し、仕様の誤解を防ぐための強力なツールです。視覚的な表現を通じて、開発者、テスター、およびその他の関係者がシステムの動作について共通の理解を持つことができます。
例えば、Webアプリケーションのログイン機能をシーケンス図で表現することで、フロントエンド、バックエンド、認証サーバー間のやり取りを明確にし、各コンポーネントの役割を共有できます。これにより、開発チーム全体が同じ定義に基づいて作業を進めることができ、開発プロセスにおける手戻りを削減できます。
シーケンス図は、システムの概要を共有し、実践的なコミュニケーションを促進するための重要な役割を果たします。
シーケンス図の作成手順:ステップバイステップ
シーケンス図を作成する際は、要件定義からメッセージの流れの設計まで、段階的なアプローチが不可欠です。ここでは、シーケンス図を作成するための手順を詳しく解説します。
要件の整理と明確化
シーケンス図作成の最初のステップは、システムの要件を整理し、明確にすることです。まず、システムがどのような機能を提供する必要があるのか、具体的な要件を詳細に洗い出します。次に、これらの要件を基に、システムが満たすべき制約条件を明確にします。例えば、性能要件、セキュリティ要件、可用性要件などが考えられます。
要件定義が不十分な場合、後の設計段階で手戻りが発生するリスクが高まります。要件定義では、ユースケースを記述し、システムの利用者がどのような操作を行い、システムがどのように応答するかを明確にすることが重要です。要件定義の段階で、関係者との間で認識のずれがないように、ドキュメントを作成し、レビューを行うことが望ましいです。
要件定義が完了したら、それを基にシーケンス図の作成に進みます。要件定義の質は、シーケンス図の正確性と有用性に直接影響するため、このステップは非常に重要です。要件定義をしっかりと行うことで、手戻りを防ぎ、効率的な開発を実現できます。
アクターとオブジェクトの特定
次に、システムに関わるアクターとオブジェクトを特定します。アクターとは、システムを利用する外部のエンティティ(ユーザー、外部システムなど)を指します。オブジェクトとは、システム内部で動作する要素(クラス、インスタンス、コンポーネントなど)を指します。
アクターとオブジェクトを特定する際には、要件定義で洗い出したユースケースを参考にします。各ユースケースにおいて、誰が(または何が)システムとやり取りを行うのか、そしてシステム内部でどのような要素が関与するのかを明確にします。例えば、ECサイトの「商品を購入する」というユースケースでは、アクターは「顧客」、オブジェクトは「商品」、「カート」、「決済サービス」などが考えられます。
アクターとオブジェクトを特定したら、それぞれの役割と責任を定義します。これにより、シーケンス図上でアクターとオブジェクトがどのように相互作用するかを明確に表現できます。アクターとオブジェクトの特定は、シーケンス図の正確性と理解度を高めるために不可欠なステップです。この段階で、アクターとオブジェクトの命名規則を統一しておくことで、後の設計作業がスムーズに進みます。
メッセージの流れの設計
アクターとオブジェクトを特定したら、次にオブジェクト間のメッセージの流れを設計します。メッセージとは、オブジェクト間でやり取りされる情報や命令のことです。メッセージの流れを設計する際には、ユースケースに基づいて、各オブジェクトがどのようなメッセージを送受信する必要があるかを明確にします。
例えば、ECサイトの「商品を購入する」というユースケースでは、「顧客」が「商品」を選択し、「カート」に追加するメッセージ、「カート」が「決済サービス」に決済を依頼するメッセージなどが考えられます。メッセージの種類と順序を決定する際には、システムの動作フローを正確に表現できるように注意します。
メッセージには、同期メッセージ(呼び出し元が応答を待つ)と非同期メッセージ(呼び出し元が応答を待たない)の2種類があります。適切なメッセージの種類を選択することで、システムの並行性や応答性を考慮した設計が可能です。メッセージの流れを設計する際には、エラー処理や例外処理も考慮に入れることが重要です。これにより、システムの信頼性と安定性を高めることができます。メッセージの流れの設計は、シーケンス図の中心となる部分であり、システムの動作を正確に表現するために非常に重要なステップです。
シーケンス図作成に役立つツール
シーケンス図の作成を効率化するためには、適切なツールの選択が不可欠です。ここでは、代表的なツールであるLucidchartとSI Object Browser Designerについて、概要と特徴、活用方法を紹介します。
Lucidchart
Lucidchartは、クラウドベースで利用可能な作図ツールであり、特にシーケンス図の作成において、その直感的な操作性とリアルタイムでの共同編集機能が強みです。ドラッグ&ドロップによる操作で、容易にオブジェクトやメッセージの追加、編集が行え、チームでの設計作業を円滑に進めることができます。
Lucidchartを活用することで、シーケンス図作成の基本を習得し、設計プロセスを効率化することが可能です。Lucidchartはインタラクティブなインターフェースを提供し、ビジネスシーンでの利用を想定した豊富なテンプレートが用意されています。シーケンス図の作成においては、ライフライン、オブジェクト、メッセージといった要素を視覚的に配置し、システム内の相互作用を明確に表現できます。
リアルタイム共同編集機能により、チームメンバーが同時に図を編集し、フィードバックを即座に反映させることが可能です。プロジェクト管理においては、各ステージのタスクを詳細に定義し、リアルタイムで共同編集を行うことで、プロジェクトの進行状況を把握できます。
例えば、あるチームが複雑なプロジェクトを管理するためにLucidchartを使用した事例では、各ステージのタスクを視覚化し、プロジェクトの流れを把握できるようにしました。チームメンバーがプロジェクトの進行状況をリアルタイムで確認し、変更を反映させることが容易になり、タスクを細かく分割し、完了を追跡することで、プロジェクトの完了状況を透明に管理しました。
その結果、チーム内でより効率的なコラボレーションが可能になり、プロジェクトの完了時間が短縮され、最終的により優れた結果を達成するのに役立ちました。Lucidchartは、無料プランも提供されていますが、利用できる図形やテンプレートの数に制限があります。より高度な機能を利用するためには、有料プランへの加入を検討する必要があります。個人利用の場合は月額7.95、チーム利用の場合は1ユーザーあたり月額
10.45で利用可能です。
SI Object Browser Designer
SI Object Browser Designerは、シーケンス図の作成に特化したツールであり、特に詳細設計における要件の視覚化と管理に強みを発揮します。このツールを使用することで、開発者はシステムの挙動を正確にモデル化し、関係者間での共通理解を深めることができます。
SI Object Browser Designerは、オブジェクト間のメッセージの流れを明確に表現し、システムの動的な側面を詳細に分析することを可能にします。SI Object Browser Designerは、シーケンス図の作成に最適なツールとして、開発者が要件を視覚化し、管理するのに役立ちます。
具体的な機能としては、オブジェクトのライフライン、メッセージの送受信、条件分岐、ループ処理などをグラフィカルに表現できます。これにより、複雑なシステムの挙動を直感的に理解し、設計上の問題点を早期に発見することが可能です。
また、作成したシーケンス図は、他の設計ドキュメントとの連携も容易であり、設計プロセス全体の一貫性を保つことができます。SI Object Browser Designerを活用することで、開発者は詳細設計の品質を向上させ、手戻りを削減することができます。
例えば、あるソフトウェア開発プロジェクトにおいて、SI Object Browser Designerを使用してシーケンス図を作成した結果、設計段階でのコミュニケーション不足が解消され、開発チーム全体の理解度が向上しました。その結果、開発後期における手戻りが大幅に減少し、プロジェクトの納期遵守に貢献しました。
SI Object Browser Designerは、特に大規模なシステム開発や、複雑なビジネスロジックを伴うシステムの設計において、その効果を発揮します。要件定義から詳細設計、実装、テストといった開発ライフサイクル全体を通して、一貫したモデルベースの開発を支援します。
シーケンス図作成の注意点とベストプラクティス
シーケンス図を作成する際には、いくつかの注意点とベストプラクティスがあります。これらのポイントを理解することで、より効果的で理解しやすいシーケンス図を作成できます。
複雑化を避ける
シーケンス図を作成する際、複雑化は避けるべき重要なポイントです。情報量が多すぎると、図の視認性が低下し、関係者間の意思疎通を妨げる可能性があります。具体的な処理内容を詳細に記述しすぎず、重要なポイントに絞って記述することが推奨されます。
図が複雑で長くなる場合は、シナリオを分割し、複数の図に分けることを検討してください。例えば、ログイン処理、データ登録処理、検索処理など、関連性の低い処理を異なる図に分割することで、各図の複雑さを軽減できます。外部参照を活用することも有効です。処理内容の一部を別の図として外出し、参照することで、メインのシーケンス図を簡潔に保てます。条件分岐が多い場合、条件ごとに図を分割することも有効です。alt
(代替)やopt
(オプション)などの記号を多用すると、図が複雑になるため、これらの記号の使用は必要最小限に留めるべきです。
シーケンス図は、関係者全員が理解しやすいように作成することが重要です。そのため、複雑さを避け、簡潔で明確な図を作成することを心がけてください。シーケンス図作成ツールの中には、図を自動的に整理する機能や、複雑さを軽減するための機能が搭載されているものがあります。これらのツールを活用することで、より効率的にシーケンス図を作成できます。
正確性と一貫性を保つ
シーケンス図の正確性と一貫性を保つことは、効果的なコミュニケーションと正確なシステム設計に不可欠です。シーケンス図の内容が実際のシステムの動作と一致していることを常に確認してください。誤った情報や不正確な記述は、誤解を招き、設計の誤りにつながる可能性があります。
オブジェクト名、メッセージ名、パラメータ名など、シーケンス図で使用するすべての要素に対して、一貫した命名規則を適用します。例えば、動詞+名詞の形式でメッセージ名を統一したり、オブジェクトの役割を示すプレフィックスを使用したりすることが考えられます。表記方法も一貫させることが重要です。例えば、アクティベーションバーの長さ、メッセージの矢印の形状、条件分岐の記述方法などを統一することで、図全体の可読性を高めることができます。
シーケンス図を作成する際には、関連するドキュメント(要件定義書、ユースケース図など)を参照し、矛盾がないことを確認してください。複数のシーケンス図を作成する場合は、図間で整合性が取れていることを確認する必要があります。例えば、あるシーケンス図で送信されるメッセージが、別のシーケンス図で正しく受信されているかなどを確認します。
シーケンス図のレビュープロセスを導入し、複数人で内容をチェックすることで、間違いや矛盾を発見しやすくなります。レビュー担当者は、システムの動作を理解しているだけでなく、シーケンス図の表記規則にも精通している必要があります。シーケンス図作成ツールの中には、表記規則のチェック機能や、図間の整合性を検証する機能が搭載されているものがあります。これらのツールを活用することで、正確性と一貫性を効率的に保つことができます。
適切な粒度で記述する
シーケンス図を作成する際、詳細すぎず抽象的すぎない適切な粒度で記述することが重要です。粒度が細かすぎると、図が複雑になりすぎて可読性が低下し、全体の流れを把握しにくくなります。一方、粒度が粗すぎると、必要な情報が不足し、設計の詳細を十分に伝えることができません。
シーケンス図の目的と読者を考慮して、情報の取捨選択を行う必要があります。例えば、開発者向けのシーケンス図では、技術的な詳細を含めることが適切ですが、ビジネス関係者向けのシーケンス図では、より抽象的なレベルで記述することが望ましいです。
シーケンス図の粒度を調整する際には、以下の点を考慮してください。
- まず、シーケンス図で伝えたいメッセージは何かを明確にします。
- 次に、そのメッセージを伝えるために必要な情報は何であるかを特定します。
- 不要な情報は削除し、必要な情報に焦点を当てます。
抽象度の異なる複数のシーケンス図を作成することも有効です。例えば、概要レベルのシーケンス図でシステム全体の流れを示し、詳細レベルのシーケンス図で特定の処理の詳細を記述します。
シーケンス図のレビュープロセスにおいて、粒度が適切であるかどうかを評価することも重要です。レビュー担当者は、図の目的と読者を考慮して、情報の過不足がないかを確認します。シーケンス図作成ツールの中には、粒度を調整するための機能が搭載されているものがあります。例えば、詳細レベルを切り替える機能や、特定の要素を非表示にする機能などがあります。これらのツールを活用することで、より柔軟にシーケンス図を作成できます。
シーケンス図の応用:より高度な設計へ
シーケンス図は、システムの動的な振る舞いを理解し、設計するための強力なツールです。さらに、ステートマシン図やUMLの他の図と組み合わせることで、より高度なシステム設計が可能になります。
ステートマシン図との連携
シーケンス図とステートマシン図を連携させることで、システムの動作をより一貫して理解し、デバッグや保守を効率的に行うことができます。シーケンス図は、特定の時間点におけるオブジェクト間のメッセージ交換を時系列で示し、オブジェクト間のメッセージ交換を視覚化し、システム内の動的な振る舞いの流れを理解しやすくします。
また、開発プロセスにおけるコミュニケーションエラーを減らし、システム全体像の把握に役立ちます。一方、ステートマシン図は、オブジェクトが何らかのイベントに応じてどのように状態を移行するかを示す図です。仕様書で遷移を個別に確認することなく流れをわかりやすく一覧することができ、分析、設計の段階で状態遷移図を作成して発生する遷移をモデリングすることで仕様の漏れや抜けを発見することができます。プロジェクトのメンバー間で作業の全体的なイメージを合わせることも可能です。
例えば、電子商取引システムのユーザー購入プロセスでは、ユーザーが購入プロセスにおいて何らかのイベントに応じて状態を移行するトランザクションをステートマシン図でモデル化します。この方法で、各トランザクションの流れが明確になり、システムの動作を一貫して理解することができます。シーケンス図を使用して、各トランザクションごとに異なるメッセージ交換の順序を示します。これにより、システムのエラーを早期に検知し、対処することが可能です。
UMLの他の図との組み合わせ
UML(Unified Modeling Language)は、システムやプログラムの設計を視覚的に表現するための統一されたモデリング手法です。特に、シーケンス図とクラス図を組み合わせることで、システムの構造や動作の詳細な把握が可能となります。シーケンス図は、システムがどのように動作するかのフローを示し、クラス図は、システム内のオブジェクトの構造や相互関係を詳細に表現します。
例えば、Banking Systemでは、シーケンス図でCustomerがAccountを生成する際のメソッド呼び出し順序やエラー処理の流れを示し、クラス図でCustomerクラスとAccountクラスの関係やメンバー変数を詳細に表現します。
ロックWi-Fi Systemでは、シーケンス図でUserがWi-Fiネットワークへのログイン操作や、Wi-Fi接続切断時の動作フローを視覚化し、クラス図でUserクラスとWi-Fiクラスの関係やメンバー変数を詳細に表現します。
多くのUMLモデリングツール(Astah UML、Enterprise Architect、Visual Paradigmなど)では、デザインパターンのテンプレートが提供されており、設計の効率化が可能です。Factory Methodパターンでは、クラス図を使用してFactoryクラスとProductクラスをモデル化し、シーケンス図を使用してFactoryクラスがProductクラスに依存関係を持つ動作フローを視覚化します。

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おわりに
シーケンス図はシステム開発において、関係者間の認識を一致させ、スムーズな連携を実現するための強力なツールです。
今回ご紹介した基本概念や作成手順、注意点を参考に、詳細設計に自信を持って活用し、効率的な開発プロセスを推進していきましょう。
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