はじめに
高品質なデータは、正確な意思決定や業務効率の向上に直結するため、データ品質管理はデータ基盤運用において欠かせない要素です。
品質管理には多様なアプローチがありますが、本記事ではその中でも「テスト」による品質担保に焦点を当て、dbtで活用できるテスト手法を紹介していきます。
目的は、プロジェクトの規模や要件に応じて、適切なdbt testの選定・組み合わせができるよう、特徴と活用パターンを整理することです。
なぜデータ品質が重要なのか?
データ品質は正確な分析や効果的な意思決定を支える重要な要素であり、品質の高いデータは業務効率や顧客満足度の向上に寄与する一方、品質の低下は重大なリスクを招く可能性があるため、継続的な監視と改善が不可欠です。
データ品質やその管理については以下記事にまとめてありますので、気になる方はご参照ください。
主なdbt testのメリット・デメリット
dbt testには標準で備わっているテスト手法から、拡張機能として追加することで多くのテストバリエーションを実装することができます。
以下表では、主なdbt testのメリットとデメリットをまとめています。
テスト手法 | メリット | デメリット |
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Built-in Schema Tests | - 宣言的な記述で導入が容易 - 基本的な制約チェック(NULL, 一意性など)に対応 | - 表現力が限定的(複雑な条件不可) - 仕様のカスタマイズが困難 |
Singular Test | - SQLベースで柔軟にテスト条件を記述可能 - 特定モデルや一時的なチェックに便利 | - 再利用性がない - SQL知識・dbt特有のお作法の理解が必要 |
Singular Test Python | - 高度なロジックの実装が可能 - pandas/numpy など外部ライブラリが使える | - 学習コストが高め - メンテ負荷増※1 |
Custom Generic Test | - パラメータ化された再利用可能なテスト関数が作れる - 複数モデルに適用しやすい | - テストの構築にJinja + dbt構文の理解が必要 - 単純なチェックにはやや過剰 |
dbt-utils | - Generic Testを拡張するユーティリティ集 - 宣言的な記述で複雑なテストも簡単に定義 | - パフォーマンスに注意(大規模テーブルで expression_is_true など) |
dbt-expectations | - dbt-utilsをさらに拡張し、約60種類のテストを提供 - pandas/GE風の直感的な命名 | - テストの一部は抽象度が高く、動作がブラックボックス化しやすい - メンテ負荷増 |
Unit tests | - SQLのロジックテストが可能 - 複数モデルに適用可能 | - メンテ負荷増 - ロジックが複雑であるほど学習コスト増 |
Elementary | - テスト結果を自動集計し異常検知・Slack通知が可能 | - 導入がやや重い(dbtプロジェクトに外部依存追加) - 精度や過検知調整が必要 |

注意
※1. メンテ負荷増のユースケースとして、テストケースをプログラム言語で書ける分、複雑な処理集計ロジックを理解してメンテできる人材不足や、属人化があげられます。
組み合わせパターン
テスト構成は、ユースケースやチームの成熟度に応じて段階的に拡張できます。
以下は、よくあるニーズごとに整理したパターン例です。
あくまで参考として、実際には要件に応じて柔軟に組み合わせてください。
コスト・導入難易度の定義
主に運用・保守・追加ツールの導入にかかる工数や金銭的コストを指します。
dbt自体はOSSですが、複雑な構成や通知連携などを含めることで人的・時間的コストが増加する点を考慮しています。
組み合わせパターン | dbt test | 組み合わせ観点 | コスト | 導入難易度 |
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最小構成(dbt単体) | - Built-in Schema Test - Unit tests | - 基本的なデータ品質担保(NOT NULL・UNIQUE など) - スモールスタートで容易にカバレッジ拡大可能 | 低 | 低 |
データガバナンス重視構成 | - 同上 - dbt utils - dbt-expectations | - Built-in Schema Testではカバーできないテスト要件を補完 - dbt docs のモデルやカラムの要件説明を補完 | 低 | 低〜中 |
テストケースが複雑な構成 | - 同上 - Singular Test - Custom Generic Test - Python Test | - Generic Testでは要件を満たせないテストが出た場合に限り導入 | 中 | 中〜高 |
モニタリング重視構成 | - 同上 - dbt Elementary | - テスト結果の可視化と通知(Slack, Emailなど) - 異常検知やデータドリフト監視など運用支援に特化 | 高 | 高 |
導入難易度:
ツールの学習コスト、既存プロジェクトへの組み込みや運用開始までの準備のしやすさを基準としています。
既存のdbtの知識で対応できる範囲が広いほど「低」、カスタム開発や追加の監視設定が必要な場合は「高」としています。
DWHの3層構造における各層のテストの役割
ここでは3層構造を例としていますが、 各層における役割を意識し、それに適したテストを行うことが望ましいです。
層 | 特徴 | テスト目的 | テスト手法 |
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データレイク | 構造化・非構造化データを問わず、 生データをそのまま蓄積 | データのソースとなる場所なため、 - データ鮮度 - カラム制約(Not Null / UNIQUE制約) - カラム型 - 意図しないデータがカラムに存在するかの値チェック などのデータそのものの品質を担保するテストを行うこと | - Built-in Schema Test |
データウェアハウス | 分析用に最適化された構造化データを保管 | この層から分析ロジックが行われるため、ロジックテストを行う。 また、テーブル間結合が発生するため、参照整合性テストも行う必要がある。 | - Built-in Schema Test - Unit tests - dbt utils |
データマート | 特定の部門や目的に特化したデータを格納 | ダッシュボードに表示されるKPI・数値の正確性、フィルタ・粒度の整合性、ビジネスロジック整合性などを検証する | - Built-in Schema Test - Singular Test - Custom Generic Test - Python Test |
まとめ
この記事では、dbtにおける主要なテスト手法の特徴と、現実的な組み合わせ方について紹介しました。
テスト手法は「取捨選択」ではなく「積み重ね」 です。まずは Built-in Schema Test を土台とし、要件に応じて Generic Test や拡張ライブラリ、モニタリング基盤を段階的に追加していくことで、柔軟かつ堅牢なデータ品質管理が可能になります。
自チームにとって最適なスタート地点と拡張ポイントを見つける参考になれば幸いです。
参考

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