はじめに
BIツール導入は、データに基づいた意思決定を加速し、ビジネス成長を牽引する上で不可欠です。しかし、世の中には多種多様なBIツールが存在し、機能、費用、運用、そして自社の既存IT環境との相性など、多角的な視点から最適な選択をすることは容易ではありません。
本記事では、BI ツール導入の意思決定を支援するため、主要なBIツールであるTableau、Looker、Looker Studio、Power BI、Redashを、機能面、費用面、アカウント管理、権限管理、データ連携、AI連携といった多角的な観点から徹底的に比較します。
BI ツールの比較をする前に
多くの企業が既にグループウェアやクラウド環境(例: Google Workspace, Microsoft 365, AWS, Google Cloud, Azureなど)を利用しており、これらの環境と親和性の高いBIツールを選ぶことは、導入後のスムーズな運用やコスト効率に大きく影響します。例えば、Google Workspaceを主軸とする企業であればLookerやLooker Studioが、Microsoft 365を利用している企業であればPower BIが有力な選択肢となるでしょう。また、特定のDWH(データウェアハウス)との連携要否、社内のデータ分析スキルレベルも、ツール選定の重要な要素となります。
本記事では、このような自社のITインフラや利用状況を踏まえたBIツール選定の重要性を前提としつつ、BI ツールを比較します。
主要 BI ツールのメリット・デメリット
ここでは各 BI ツールのメリット・デメリットを確認していきます。
Tableau
【Tableauとは】
直感的で美しいデータビジュアライゼーションが強みのBIツールです。ドラッグ&ドロップ操作で、複雑なデータもわかりやすく表現でき、データからインサイトを素早く発見することに特化しています。
ダッシュボード例

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メリット
- 多様なグラフィック機能:棒グラフ、折れ線グラフ、散布図など、多様なビジュアライゼーションが可能です。
- 幅広いデータソースへの対応:データベース、CSVファイル、BigQueryなど幅広いデータソースに対応しています。
- 利便性:テーブル設計をあまり考慮しなくても直感的なドラッグ&ドロップ操作で簡単に分析を開始できます。
- 柔軟な権限設定:プロジェクト、ワークブック、ビュー単位での詳細な権限設定が可能です。
- データ抽出・加工:Tableau Prep Builderによるデータ準備、結合、変換、集計が可能です(ただし、データの一元管理、再利用性の向上、処理パフォーマンスの最適化の観点から一般的にはDWH内でデータ加工を行うことが推奨されます。組織のスキルセットやデータ量、ツールの専門性によっては、BIツール内での加工が効率的な場合もあります)。
- AI連携:Einstein DiscoveryといったSalesforceのAI機能との連携が可能で、予測分析や傾向検出をダッシュボードに組み込むことができます。自然言語処理によるデータの質問機能も強化されています。
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デメリット
- 高コスト:アカウントごとの月額課金のため、ユーザー数が増えるほど高コストになります。
Looker
【Lookerとは】
Google Cloudが提供するエンタープライズ向けのBIプラットフォームです。LookMLという独自言語を用いてデータモデルを構築することで、データの一貫性を保ちつつ、セキュアでガバナンスの効いたデータ活用を実現します。大規模データ基盤との親和性が非常に高いのが特徴です。
ダッシュボード例

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メリット
- 柔軟で強力な権限設定:行レベル・ダッシュボード単位の権限制御が柔軟に可能です。
- 強力なデータモデリング機能:LookMLでデータの構造の定義、ビジネスロジックの組み込みが可能で、複雑なデータ分析を効率的に行えます。
- 高パフォーマンス:大規模データ運用にも対応可能なパフォーマンスを持ちます。
- データ抽出・加工:豊富なデータソースコネクタを持ち、LookMLによるデータ変換・モデリングが可能です。
- アカウント管理の容易さ:Googleアカウントによる管理で、Google Cloud IAMとの連携も可能です。
- AI連携:Looker Extension (拡張機能) を利用することで、チャット形式でデータへの問い合わせが自由にでき、フィルターや項目、チャートタイプなどを決定できます。
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デメリット
- 学習コスト:他のツールに比べると学習コストがやや高い傾向にあります。(LookMLなど)
- 高コスト:料金計算はユーザー料金・プラットフォーム料金で構成されており、比較的高額になることが多いです(詳しくは問い合わせが必要です)。
Looker Studio
【Looker Studioとは】
Googleが提供する、無料で手軽に利用できるクラウドベースのBIツールです。Google AnalyticsやGoogle Adsなど、Googleの各種サービスとの連携が非常にスムーズで、マーケティングデータなどの可視化に強みを発揮します。
ダッシュボード例

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メリット
- 使いやすいインターフェース:シンプルなインターフェースで、初心者でも簡単に使い始められます。
- 低コスト:クエリのスキャン量に応じた従量課金であり、テーブル設計の工夫でコスト減が見込めます。
- アカウント管理の容易さ:Googleアカウントによる管理で、Google Cloud IAMとの連携も可能です。
- 柔軟な権限設定:行単位での詳細な権限設定が可能です。ただしメールアドレスでの設定のみで、データソースにメールアドレスのフィールドが含まれる必要があります。
- AI連携:Looker Studio ProのConversational Analyticsという機能を利用することで、自然言語でのクエリ生成、自動グラフ作成が可能です。
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デメリット
- 機能の限定性:TableauやPower BIに比べるとグラフィック機能や高度な分析機能が限定的です。
- 大規模データ処理の課題: 一度に処理できるデータ量が決まっているため大量のデータを処理できない場合があり、エンタープライズ用途には不向きです。
- データ加工:データの加工方法がSQLによるものだけです。
- セキュリティ機能:2段階認証がGoogleアカウント依存になってしまいます。
Power BI
【Power BIとは】
Microsoftが提供するBIツールで、Excelとの高い親和性を持つことが最大の特徴です。豊富なビジュアルとDAX言語による高度な分析機能を提供します。
ダッシュボード例

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メリット
- 豊富なビジュアル:シンプルなインターフェースで、初心者でも簡単に使い始められます。
- 高度なデータ分析機能: DAX(Data Analysis Expressions)言語による複雑な計算が可能です。
- Microsoftツールとの連携:Microsoft 365やAzureとの統合がスムーズに行えるため、既にMicrosoft製品を使用している企業にとっては非常に使いやすいです。特にExcelとの互換性が大きな魅力です。
- データ抽出・加工:Power Queryによる多様なデータソースへの接続と強力なデータ変換・整形機能が可能です(ただし、データの一元管理、再利用性の向上、処理パフォーマンスの最適化の観点から一般的にはDWH内でデータ加工を行うことが推奨されます。組織のスキルセットやデータ量、ツールの専門性によっては、BIツール内での加工が効率的な場合もあります)。
- 費用面:個人利用のための無料版のほか、有料ライセンスにもユーザー単位の課金形態や変動性など課金方法がさまざまで高コストパフォーマンスが狙えます。
- 柔軟な権限設定:プロジェクト、ワークブック、ビュー単位での詳細な権限設定が可能です。
- AI連携:Power BI Premiumであればレポートの自動生成、Q&A機能(自然言語でのデータ加工)が可能です。
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デメリット
- 学習コスト:DAX関数の学習が少し時間がかかるかもしれません。
- Google Workspaceとの連携:Azure ADとの連携が前提であり、Google Workspace中心の企業では運用が煩雑になる恐れがあります。
Redash
【Redashとは】
オープンソースで提供される、SQLベースのシンプルなBIツールです。エンジニアやデータアナリストが、SQLクエリを実行して得た結果をグラフ化・ダッシュボード化することに特化しています。
ダッシュボード例

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メリット
- 低コスト:オープンソースであり、比較的低コストで運用可能です。
- 学習コストの低さ:SQL中心の操作で、シンプルなインターフェースなため、データ分析の知識があるエンジニアであれば学習コストが低いです。
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デメリット
- グラフィック機能:バブルチャートなどの高度な可視化には対応していません。
- セキュリティ機能の弱さ: 認証面(特に二段階認証)が弱く、行レベルでの権限管理が困難なため、外部ユーザーへのセキュアな公開には不向きです。
- 大規模データ処理の課題: 一度に処理できるデータ量が決まっているため大量のデータを処理できない場合があり、エンタープライズ用途には不向きです。
- AI連携:Redash自体に高度なAI/機械学習機能は組み込まれていません。AIによる分析を行いたい場合は、別途Pythonなどのツールで分析し、その結果をRedashで可視化するといった連携が必要になります。
主要 BI ツールの比較
上記のメリット・デメリットを踏まえ、各観点ごとに筆者なりの BI ツールの評価をします。
観点 | Tableau | Looker | Looker Studio | Power BI | Redash |
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機能面 | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ | △ |
費用面 | △ | △ | ◎ | ◯ | ◎ |
アカウント管理 | △ | ◎ | ◎ | 〇 | △ |
アクセス権限 | 〇 | ◎ | 〇 | 〇 | △ |
データ抽出・加工 | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ | 〇 |
モバイル対応 | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ | ✕ |
BigQueryとの親和性 | 〇 | ◎ | ◎ | 〇 | 〇 |
MFA | 〇 | ◎ | △ | ◎ | ✕ |
AI連携 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
凡例 ◎:非常に優れている、〇:優れている、△:普通/条件付きで良い、✕:劣っている/課題あり
ケース別おすすめ BI ツール紹介
ここではケース別で使用すべき BI ツールを紹介していきます。
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「データの表現力・美しさにこだわりたい」「専門の分析チームがいる」など → Tableauがおすすめ
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「Google Cloud (特にBigQuery) をデータ基盤の中心に据え、セキュアなデータ活用を実現したい」など → Lookerがおすすめ
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「Google Workspaceユーザーで、手軽にBIを始めたい」「まずはコストを抑えたい非エンジニア中心の小規模組織」など → Looker Studioがおすすめ
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「Microsoft 365 (Excel等) を全社で活用しており、既存資産を活かしたい」「無料からスモールスタートしたい」など → Power BIがおすすめ
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「SQLが得意なエンジニアが中心で、とにかく低コストで柔軟な分析環境を構築したい」など → Redashがおすすめ
まとめ
本記事では、BIツールを多角的な観点から比較してきました。
BI ツール選びは、自社の組織構造、ITインフラ、人材スキル、そしてデータ活用の目的に深く根ざした戦略的な意思決定です。
安易に「使いやすいツール」に飛びつくのではなく、中長期的な視点で、コスト、運用、そしてデータ活用の最大化につながる賢明な選択をすることが重要です。

備考
Hakky では社内のデータ活用やサービスとしてデータ提供を行うためのソリューションを展開しております。
「BI ツールでの Dashboard 可視化に困っている」など具体的な相談はもちろんのこと、「どんなことをお願いできるのか知りたい」や「こんなことをやりたい」など、ご検討段階でも構いませんので、ぜひお気軽にフォームよりお問い合わせくださいませ。